起源
旧約聖書に登場する異教の神であるアシュトレト、複数形アシュタロトがこのアスタロトとされている。アスタロトはヨーロッパに伝わる悪魔である。アシュタロト、アシュタロスとも呼ばれている。アシュトレトとは「恥」を意味するヘブライ語であり、蔑称である。
女神としての側面
もともとはセム人の豊穣の女神であり、ユダヤに敵対視されたフェニキアの女神アスタルテが起源である。アスタルテはバアル神の配偶神であり、古代オリエントの地母神である。創造、維持、破壊を司る豊饒の女神であり、全ての神々の母でもある。このアスタルテはバビロニアではイシュタルであり、ギリシアではアフロディーテと呼ばれる女神であり、この女神たちは同じである。このアスタルテはエジプトへ渡ると戦の女神アストレトとなる。
そのスタイルは、ライオンの頭を持った人間の女性となり、4頭の馬がひく戦車を操る姿となったため男の悪魔として固まっていったとされる。
ミルトンは著作『失楽園』第1巻で、堕ちた天使たちを紹介する中でバアリムとアシュトレトの名を挙げている。アシュトレトを「フェニキア人が天の女王として崇拝したアスタルテ」として言及している。
悪魔アスタロト
40の軍団の頂点に立っている。「座天使の公子」と呼ばれており「恐怖公」などとも呼ばれている。72の悪魔の性質を記した『ゴエティア』では29番目に紹介されており、悪魔軍団を率いる大公爵と紹介されている。
「エノクの書」での堕天使の一人で、ミカエリウスの「驚嘆すべき憑依の物語」によるデーモンの階級では「座天使」である。
いっぽう、ルイス・スペンスの『オカルティズムの事典』によれば、熾天使の地位にあるとされており、いずれも高い地位の天使とされている。
『大奥義書』では大公爵とされており、アスタロトを皇帝ルシファー・君主ベルゼブブと並ぶ地獄の支配者の1人として扱っている。
『真正奥義書』でも、ルシファー・ベルゼブブと並ぶ3人の支配者の1人であり、サルガタナス、ネビロスという配下の大悪魔とともにアメリカに住まうとされている。
ベルゼブブの蝿騎士団の一員であり、ベルゼブブの側近ともされている。
『ホノリウスの奥義書』では、一週間で呼び出す悪魔の一人と数えられており、水曜日に召喚されるべき悪魔という。過去と未来を見通す力があるとされ、様々な学問に精通している。
召喚
召喚した者には隠された知識を教授する。いかにして天使たちが創造され、堕天使たちがそのようにして地に落ちていったかを語るとされる。しかし、自分は望んで地に落ちたわけではないとも語る。
常に安楽を好み、人を怠惰に落としていくとされる。
容姿
召喚されると、黒装束に身を包み(あるいは全裸で)、零れ落ちるような血で唇を濡らしている。
巨大なドラゴンに似た地獄の獣にまたがり、右手に毒蛇を持ち、または右腕に毒蛇を巻きつけ、黒い天使の姿で現れるという。
吐き出す息は有毒であり耐え難い悪臭であるため、近くに寄るのは危険であるとされる。
コランド・プランシーの「地獄の辞典」の描かれている挿絵の悪魔アスタロトの姿が有名である。
その挿絵には獣にまたがって乗っているアスタロトが描かれており、全裸である。またがっている獣には大きな翼と大きな尾があり、ドラゴンというよりはネズミの顔に似ている。
全裸のアスタロトの頭には王冠のような冠が乗っている。天使の翼が付いており左手に蛇を持っている。その指は鉤爪のようで鋭そうに見える。
蝿騎士団との関係
蝿騎士団は、主に「蝿の王」ベルゼブブ(Beelzebub)を崇拝する集団として知られていますが、アスタロトとの関連性も指摘されています。これは、ベルゼブブとアスタロトが地獄の高位の悪魔としてしばしば同列に語られること、そして両者が腐敗や堕落の象徴として共通点を持つことに起因しています。
アスタロトの加護と蝿騎士団の目的
- 知識の授与
アスタロトは、蝿騎士団のメンバーに対して禁じられた知識や魔術的な力を授ける存在とされています。特に、未来予知や召喚術、呪術の技法を教えることで、団員の能力を高めていると考えられています。 - 腐敗の象徴としての共鳴
蝿騎士団が象徴する「腐敗」と「堕落」のテーマは、アスタロトが持つ負の象徴性と強く結びついています。アスタロトの存在は、蝿騎士団の活動を通じて、社会や個人の堕落をさらに深める力として機能しています。
儀式におけるアスタロトの位置づけ
蝿騎士団の儀式の中には、ベルゼブブだけでなくアスタロトを呼び出し、崇拝するものがあるとされています。これらの儀式では、アスタロトに忠誠を誓うことで知識や力を得ると同時に、団員としての地位を高めることができると信じられています。
アスタロトとベルゼブブの違い
アスタロトとベルゼブブは、しばしば混同されることがありますが、以下の点で異なる役割を持ちます:
- ベルゼブブ
主に「蝿の王」として、疫病や腐敗の象徴とされます。蝿騎士団の主神的存在であり、彼の意志が団の行動指針となります。 - アスタロト
知識や魔術の提供者として、団員個々の能力を高める存在です。彼の教えは、蝿騎士団のメンバーが儀式や呪術を行う際に重要な役割を果たします。
ソロモン72柱におけるアスタロト
地獄の公爵または大公(Grand Duke of Hell)として高い地位を持ち、膨大な知識と力を有する悪魔として知られています。その名前の由来は、古代セム系の女神「アシュタロテ(Astarte)」に遡り、神格化された存在がキリスト教的な悪魔観の中で堕落した姿へと変容したものとされています。
アスタロトの地位と役割
アスタロトはソロモン72柱の中で非常に高位の悪魔として描かれています。その地位は「地獄の公爵」として、多くの悪魔を従える統率者的な存在です。召喚者に対して知識や力を授ける一方で、強い悪臭を放つことでも知られています。
- 地位
アスタロトは、72柱の中で29番目の悪魔として記されています。彼は「地獄の大公」であり、40の軍団を指揮するとされています。 - 能力
アスタロトは、過去・現在・未来の知識を授ける力を持つとされています。また、天界の堕天使時代についての真実を語り、召喚者に哲学や科学に関する深遠な洞察を与えるとも言われています。
アスタロトを召喚する目的
アスタロトを召喚する主な理由は、その膨大な知識を得ることにあります。彼の力を借りることで、召喚者は以下のような恩恵を受けるとされています:
- 過去・現在・未来の知識の獲得
アスタロトは、召喚者に時間を超えた洞察を与えるとされています。これにより、未来の出来事を予測し、過去の隠された真実を知ることができるとされます。 - 科学と哲学の知識の向上
アスタロトは、科学や哲学に関する深い知識を持ち、召喚者に対してこれらの分野の洞察を授けるとされています。 - 隠された財宝の発見
一部の伝承では、アスタロトは隠された財宝の場所を教える力を持つとも言われています。
アスタロトと他の悪魔との関係
アスタロトは、他の高位の悪魔たちとも密接な関係を持つ存在とされています。特に、ベルゼブブやルシファーと並び、地獄の主要な勢力の一角を担うとされています。
- ルシファーとの関係
アスタロトは、ルシファーの忠実な部下であり、地獄の支配体制において重要な役割を果たしています。 - ベルゼブブとの関係
ベルゼブブと共に、地獄の堕天使たちを統率する立場にあります。
アスタロトの現代的な解釈
現代のオカルトやフィクションでは、アスタロトは単なる恐ろしい悪魔としてではなく、「知識の象徴」として再解釈されています。一部の作品では、アスタロトが知識や力を与える存在として召喚者と協力関係を築く描写も見られます。
アスタロトの警告
魔術書では、アスタロトを召喚する際には注意が必要であると警告されています。彼は非常に強力な悪魔であり、召喚者が意志を強く持たなければその力に圧倒され、支配されてしまう可能性があります。
コメント